マルジャン調査を終えて
五藤博義(レデックス認知研究所 所長)

今回の調査は、Maru-Janを行うことが認知症と関連の深い注意力、計画力(遂行機能)、
記憶力にどのような影響を与えるかを調べるためのものであった。そのために、
前述の認知機能を調べるために開発された脳測を用い、2か月間Maru-Janを行うグループと
行わないグループの比較をすることを考えた。

その結果は、それぞれ同じデータを別々に分析した橋本氏(医師)及び樋田氏(調査分析の専門家)の
2つの報告にあるように、差がないというものであった。

一般的にいって、400人以上の人に対し、睡眠、運動、酒量等のアンケート結果を含んだクラスタ分析をすれば、
生活スタイルや嗜好などが似通ったグループ(クラスタ)がいくつか存在するものであるが、
今回の調査ではそれも出てこなかった。というよりも、全体が似通った1つのクラスタということができるかもしれない。
そこで、Maru-Janを行わない調査協力者の、過去のMaru-Janの使用履歴を調べたところ、
調査以前の期間にかなりの数の対象者がMaru-Janをなんどか行ったことが分かった。
つまり、今回の調査協力者はほぼ全員がMaru-Janユーザーであり、Maru-Janユーザーは2か月間マルジャンを
行うと行わないとに関わらず、似通った認知機能の傾向を示すとの結論に至った。

そのような前提に基づいて再度、調査結果を見直してみると、Maru-Janユーザー(の高齢者)には、
一般的な高齢者の認知機能の傾向とは極めて異なる、大変興味深い知見が散見されるので、それを報告したい。

  1. 1.Maru-Janユーザーは注意力、記憶力が高い

    橋本氏の報告が示す通り、年齢と注意、エピソード記憶には相関があった。
    一般的に言えば高齢になれば経験値の影響を除けば、認知機能は低下傾向を示すものである。
    それが高齢になればなるほど(いいかえればMaru-Janを続ける期間が長ければ長いほど)注意力、記憶力が高まる、
    というのは極めて特異な結果だといえよう。つまり「認知機能の低下により社会生活や職業生活が困難になった状態」である認知症とは隔たった状態ということができるのかもしれない。
  2. 2.Maru-Jan利用は、睡眠、酒量の多寡よりも認知機能に強い影響を与える

    アンケート項目にある、睡眠、運動、酒量は、認知症のなりやすさと関係があることが他の調査で分かっている。
    ところが、今回の樋田氏の報告では、認知機能と関係があるのが運動のみであった。
    一般的には睡眠も酒量も、適度が認知機能の維持、改善に好影響を与えるとされているが、
    今回はどちらもあまり影響を与えていない。Vergheseらの研究(2003)で、
    チェスなどのゲームをしない人の認知症の危険度を1とすると、する人の危険度は0.26という調査報告がある。
    麻雀もチェス以上に認知機能を使うゲームであり、Maru-Janをしていることの特異性は、他の生活習慣よりも
    強く認知機能の維持、改善に関係があるといえるのかもしれない。
  3. 3.運動の大切さ

    Laurinらの研究(2001)では、運動をしない人の認知症の危険度を1とすると、
    週に3回以上早歩きをしている人は0.5、週3回以上歩く程度の運動をしている人は0. 67という調査報告がある。
    今回の調査でも、週3~4回と週5回以上の運動をしている人の認知機能が高いという結果になった。
    認知機能の維持、改善に、運動が大切さであることが今回の調査でも示されたといえよう。

    今回の調査は、対照群(Maru-Janをしない人)が存在せず、Maru-Janと認知機能の関係を直接、明らかにすることは
    できなかった。ただ、Maru-Janをしている人たちが年齢にかかわらず、注意力と記憶力という社会生活に極めて重要な
    認知機能を高く保っていることを示すことができたのは有意義であったと考える。

最後に、この調査にご協力いただいた橋本圭司医師(橋本高次脳機能研究所)と樋田大二郎教授(青山学院大学)に、深く感謝申し上げたい。